今夜のワインは赤かった/しょだまさし
一緒に飲んでいたワイングラスを
水洗いして水滴を拭きとって食器棚に返し
リビングの床に転がった空のボトルを
ゴミ袋に入れて鞄に押し込んだ
ローテーブル上の飲みかけのボトルと
相手のグラスはそのままにして
酔いつぶれて眠っているかの様な彼女に
心の中でさようならとつぶやいた
訪ねた時と同じ手袋を嵌めた手で
扉を開けながら振り返ると
彼女の頭部から流れ出た血が
赤ワインの様に見えた
ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
悪い予感がした時には遅かった
頭の中を直接金づちで打たれた様な衝撃と同時に
意識を失った
気づくと流しの方で物音がした
予め彼のグラスの中に塗り付けた薬は
体内で効果が出るまでに数時間を要する
彼はいつも泊まらずに帰る
再び薄れ行く意識の中で
それを飲みほした口元の
赤ワインの色が過(よぎ)った
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