スローカーヴを描いて/崎山郁
私は人の顔が覚えられないんだ
そう君が言った
昨日もずっと一緒にいて
仕事でも部署は違うけど
3年間顔を合わせていたよね
だけど、あなたを思い出す時
最初に出てくるのは声なんだよ
顔はいつもなくて
首から下とかその日の洋服だとか
そんなのしかわからないんだよ
春の中で
君の顔は緩やかに瞬いている
笑い出す先から輝いていた
日の光を放って
虫たちが飛んでいた
川辺で踊っている
もう寧ろ
私たち、などという括りはやめて
透明な液体のままで
柔らかな身体を投げ出して
しまおうよ
あなたの顔を覚えていたい
そう君は言う
あなたがいなくても
何度でもここに辿り着けるように
あなたを覚えていたいの、
と君は泣く
君は言う
春の指先の中で
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