夜のたより/木立 悟
る丘の上で
また命がふたつ
炎のなかに消えました
またたく波と砂浜の前に
すぎるものはみな影となり
無言のまま楽しげに
粉の光に消えかけながら
ひとりまたひとり去ってゆくのでした
曇間の光が
鏡の内を追って来る
鏡から鏡へ
空をついばみ
ついばまれた跡からこぼれる光が
窓から窓へ
径から径へ駆けてゆく
ゆるやかな友について
果物の皮のにおいの
壊れかけた窓の光について
何もない内と外を背に
やがてほどける命について
暗がりの球が転がる音
塩の原をわたる生きものの声
泳ぐように歩く風から
離れたふたりの姿が浮かび
やがて手と手は結ばれて
浜辺の影に消えてゆく
生まれては消える光のかたわら
常に照らされることのないものが
光の文字を読んでいるのでした
文字は降り 文字はつもり
手のひらに触れてはひらき
灰に咲いた花
夜の頂の標のように
またたいているのでした
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