魚(改)/本田憲嵩
とおくの海から聞こえる
漁船のエンジン音が
夜の上空にどんよりと膜を張る
夜露に濡れた家々の屋根が
魚の腹のように光る
窓の奥で、
そのようにしっとりと濡れていく
濡れていく
まるで母親と子のように
重なりあう
青じろい魚と魚のフォルム
斜面をすべり落ちる塩からい海水
ひとつの茫とした暗い水槽のような空間で
さらしあう秘密の数々
その周囲を取りまく
飛びはねる無数の小さなトビウオたち
ぼくは無邪気に遊泳する
ひとりの子供にならざるを得ない
やがて海月のような陶酔の膜を張って
月夜の曇り空に
半透明に浮遊してゆく存在たち
存在たち
岸辺をそぞろ歩けば
陸(おか)に上がった魚たちが
バタバタと行き場を失っている
その処分にぼくは若干困る
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