水精/本田憲嵩
 
   1

やさしいきみはあまやかな声の中に居た
水のせせらぎの癒しにも似た音色
きみは水で形成されたうつくしい水精(ナンフ)だった
ぼくはひとつの水槽の中に入るように きみのなかに熔けてゆく
きみのからだはあるいはゼラチン質にも似て
ぷるぷるぷるぷる
ぼくの意識もゼリーみたいに きみに零れはじめる
やがて半透明に透けはじめてくる ぼくらのからだ
ぼくらの存在は まるでゆらめく蜃気楼のようになる
ながい抱擁
うしなわれてゆく平衡感覚
ついに上も下もなくなって
海に映えるさかさまになった高楼のような幻となる
そのまま水の中にいる
やがて
水の中に射しこむまばゆい光が視えはじめる――

   2

さわやかな朝
やさしいきみはあまやかな声の中に居た
水のせせらぎの癒しにも似た音色で
きみは水で形成されたうつくしい水精(ナンフ)だった



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