種/あおい満月
 
居間でゆっくり酒を嗜む母の背中は、
大切な懐かしい私の未来だ。

どこからかお腹が空いている。
皮膚にふる雨は喉をくすぐる。
きっと何かの合図だ。
書きたいものを書く。
たとえ目の前に、
一個のトマトしかなかったとしても、
トマトの血で言葉を書き、
トマトの身を際限なく使って魂を現す。
汚いもののなかにこそ、
真の美を探す。
誰に教わったのかもわからない、
この理念を大切にしている。

誰かが家の扉を叩く。
トマトだらけの手が、
ドアノブを引く。
一番最初にあなたが見たトマトの、
滴の味が、
ここから始まる物語の種だ。


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