スーツ/葉leaf
 
毒も刃もすべて黙って飲み込んだ
スーツを身にまとった私は甲虫のようだ
土地が変わっても仕事が変わっても
私は同じ種類の甲虫
羽をばたつかせても決して飛べない甲虫
スーツに滲んでいる様々な言葉たちは沈殿する
それは社会への呪詛
組織への憤懣
同僚への感謝
上司への敬意
次々と矛盾しながら変転した言葉たちが
スーツの黒の中に溶け込んでいる
仕事に関わるあらゆる感情を受け止める
そのためにスーツという衣装がある
私のスーツはこの二年間でずっしりと重くなった
言葉と感情と未明の情念を吸い込んで
甲虫の背中の羽はいつか私を飛ばせてくれる
私は飛ぶ練習しかまだできていない
それでもこの黒の中にたくさんのものを吸い込んできた
スーツはもう滑走路を走り始めた
甲虫も飛べる日が近いし
ひょっとしたら気付かないうちにもう飛んでいるのかもしれない
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