もと居たところ。/梓ゆい
 
一枚の写真を眺めると
緊張した面持ちの5人家族。

この日は主役の末娘が
口をへの字にしてレンズの中心を見つめている。

(少しでも良いから笑えばよかったのに。)
20年後
写真を手帳にしまいながら
仏頂面の長女はため息をついた。

部屋の掃除をしていると
何処からかありがとう。の一言が聞こえるようで
より一層畳を磨く。

そこにいるはずの親父に笑って欲しくて
長女は仏間の花を
丁寧に飾り付けた。

いつも通りのことをしていると
ふすまの向こう側で茶をすすり
新聞のテレビ欄とにらめっこをする親父が
大きな声で呼んでいる気がするのだ。

そろそろお茶にしよう。と
どら焼きを一つ差し出して
「あづさ」と描かれた湯飲みに煎茶を注ぎながら。

戻る   Point(1)