春陰茎/ただのみきや
瞬間に腹芸が生かされる
迎撃する 桂馬の一刺し
タクシーは燃え尽きてもういない
マルチーズが吠える月もない四月
十匹のチワワを連れた老人がアスファルトに流される
紀元前バベルの塔の下敷きになった
他人だけが世界を造る
そうして楽園が人の数だけ生まれる
ヒップホップが歩いて来ると
政党宣伝カーに合わせて踊り出した
苦い火花がとかげのように素早く
暗い人の性に華を添える
見ていた双眼鏡で
鳥を見たくて鳥は見えず人ばかりが
姿もなく文字ばかりが
もういない男
春は瞬く間に切り取った
現象は煙
存在は灰
言葉は女のクスクスに紛れて路に散乱した
珈琲の香りが歩いている
学生たちを倒すボウリングの玉の重さ
縫うように生きているが
いつまでもそうはいられない
珈琲が脳に咲く
――おはよう
踏みつぶされたワラジムシ
見慣れた誰かが肩を掴んだ
つつじがたわわに見られている
《春陰茎:2016年4月20日》
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