春陰茎/ただのみきや
 
二匹のマルチーズと男が一人
春の錯覚を辿りやって来る
姿はゆらぐが後ろめたい足跡は一切なく
コンビニ袋のなかに桂馬を隠している
策士だが出世はできない
文脈の中に時は在って無いようなもの
ではなく無いものが在るもののように振舞っている
タクシーの運転手が車を止めて煙草を吸う
スズメたちの受動喫煙しろい風
辺りの音は切れ切れで遠慮深い隣人は隠れている
マルチーズの鼻が伸びる
小旗を揺らすほどの風にさらわれる煙は
命が連れ去られるのに似ていた
犬の紐に引かれ男の腕は浮遊する
歪まない鏡と真っすぐな言葉
曲がって見えるのは相手のせいだと譲らない
蛇のようにとぐろを巻く偉大
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