花畑(2)/吉岡ペペロ
 
座している和夫くんが浮いているように見えたのだ。和夫くんと床のあいだに月の光の縞模様が入り込んでいた。
 目を閉じて微笑んだまま、和夫くんはぼくに気づいたのだろうか、ちいさくあごを動かした。
「ごめんなさい」
 ぼくはとっさに謝った。
 うしろを振り返ると和夫くんのお母さんがまだこちらを見ていた。ぼくは納屋を離れて和夫くんのお母さんのほうに走った。和夫くんのお母さんが目を閉じて立っていた。ぼくのほうを見ていたのではなかったのだ。
 ぼくは和夫くんのお母さんを過ぎてそのままお寺の門を出た。もう真っ暗だ。呆然としながら小走りで駆けると人とぶつかった。暗闇でも分かるくらい鼻の穴の大きな男だった。
「あぶねえな、気をつけろよ」
 男がそう言ったときぼくは思わず手で口と鼻をおおった。そしてその場から逃げた。こいつだと思った。和夫くんの敵はこいつだ。ぼくは角に隠れて男を目で追った。男がお寺の門をくぐった。酸えた肉と埃のまじったような臭いが、ぼくの口と鼻からしばらくのあいだ消えなかった。



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