新しい季節/opus
「ワン」
そう犬が吠える
近くのテニスコートから
軽快なボールを叩く音が聞こえる
青い空に陽がのぼり
舞い散る桜の花びらを
きらきらと彩る
地面は一面
桃色に染まり
その上に
力強い樹々が立ち並ぶ
幹は太く、深く、
黒々とした皺を浮かべている
犬が地面に顔を近づけ
クンクンと匂いを嗅ぐ
あんまり長く続けるものだから
紐を引っ張って
「もうやめな」って。
こちらを向いた
犬の目は
きらきらと輝き
上げられた口角の間から
たらりと舌が垂れる
瑞々しい黒い鼻の先に
桜の花がぺたり
こちらが「ふふっ」
と笑っていると、
犬はペロリと鼻を舐め
花びらを口に含み
そのまま呑み込んだ
そして、
また口角をあげて
たらりと舌を垂らす
その頭を撫でる
枝の先に
ちらほらと
花が咲いている
根本からは新しい葉が
覗いている
「行こうか」
花びらの上を渡り
そこを立ち去る
犬はてくてくと歩を進める
フリフリと振られる
尻尾が何だか去年より
逞しく見える
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