VISION.04/ひだかたけし
おかえりなさい おかえりなさい
旅先から帰って来たばかりの僕に
いきなり響く声の渦
おかえりなさい
おかえりなさい
夕に傾き燃え上がった太陽が
一日の最後を焼き尽くし
暗紫色に沈んだ地平の彼方
またあの声が戻り来る
おかえりなさい おかえりなさい
僕は本当にびっくりした
暗がり白く浮き上がった家壁に
反射する声、観える声
オカエリナサイ
オカエリナサイ
渦巻く渦巻くその音声、
垣根と家壁のその間を
余りにクッキリと実体化して
肉声、女の優しさに溢れ
おかえりなさいおかえりなさい
声を直に観取っては
陶然と唖然と立ち尽くす僕に
近付く懐かしい女の顔、
白く白く浮き上がり
「お帰り、たけし どうしたの?」
僕の思考は停止したまま、
キョトンと母の顔を見入っている
その顔と声が分離したまま
私は未だ観ていたのだ、
響き在るモノそれ自体を
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