嘘吐き。/梓ゆい
父と呼んだ人の欠片が
ぎゅうぎゅうに詰められている。
(押し込まれんで、良かったなあ。)と
遺骨の橋渡しを終えて帰ってきた。
五年前の秋口。
同じ場所で迎えた祖父との別れ際。
ぱきっぱきっ。と手のひらの下で泣く脱け殻の破片が(痛い。痛い。)と泣いているようで耳を塞いで立ち去りたかった。
「他の人より早く、順番が来ただけだ。」
そう言っては見たものの
遺体を隠してしまいたい。
目元がくぼんで
案山子の様な手足になって
腹の中からと腐って行くのを見届けられたのなら
死んでしまった事を認められる。
黙るより泣いた方が楽だ。と誰かが言ったものだから
マスクですっぽりと顔を覆い被せ
喪服に染みが付くまで
昨日は眠れなかったと嘘をついた。
入り口にある小さな腰掛け待合室の後ろの壁
片隅にある自販機の手前
両隣の空の椅子
それらの前に佇む父の姿を思い浮かべながら
ただ眠たいだけだとうつむきながら
今日二回目の嘘をついた。
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