会話の練習 『ゆらゆら揺れるものだから』/カンチェルスキス
 
ど、ちゃんと戻ってきて、えらいですね。熱いみそ汁のお椀なんか、ツツーッと勝手に走ったりしますからね」
「僕だけだと思ってました。あなたもですか」
「悩んでたんですか?」
「霊のしわざかなって。そんな時期もありました」
「そんな時期もあります。今晩は、みそ汁でもこしらえて、お互い豪儀にツツーッと走らせましょう」
「増えるわかめ入れて、ですね」
「こんなきれいな夕日見れたら、それぐらい許されるでしょう」
「今、自分の中で、何か増えた気がしました」
「わかめ?いや、もっと違うもの?」
「何かわからないけど、こう、何か」
「言わなくてもいいですよ。しぜんにそうなっていくものですから。鳥だって、空がなけりゃ、飛べないただのおっとりですよ」
「冴えてますね。やっぱりお師匠さんでしたか」
「今晩のおかずも手に入れたしね。増えるわかめの話、帰ったら早速、嫁にも話してやりますよ」
「足りないものが足りてくると、笑顔が増えますからね」




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