ぜんぶ/ハァモニィベル
 




 中学の頃の話だ。近所のセントバーナード犬をよく散歩させていた。
図体は巨大なくせに子犬に勇ましく吠えられると、かならずいそいそと私の方へ戻ってくるような気弱な(あるいは優しい)奴だった。それがまた、なぜかかならず、散歩の途中で、植込みとか花木の匂いを嗅ぐと、急に振り返っては、いきなり突進してくるので、これが実に困った散歩の醍醐味であった。
 い、一体 なんの条件反射なんだ、と思う間もなく、植込みがある度に、振り向いて突進された。

 その頃、剣道部だった私は、体当たりにはびくともしない自信があった。
ところが、セントバーナードの突進は、ちょうど腰の、そのやや下の辺りに
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