貼り紙世界の果て/カンチェルスキス
 



「誠に勝手ながら…」
 とくれば、こう続くのが世の倣いである。
「○○日と○○日は、お休みさせて頂きます」
 大型連休、盆休み、正月の他、不定期で休むときなどにも、よく見かける。こんな貼り紙を見ると、私は必ずこう吐き捨てるようにしている。
「勝手だな!」
 常連客でもないのである。ただの通りすがり、こんな店があったのか、と初めて気づくほどのうぶな関係性である。
 事情は知らない。例えば、細々と営む駅前の薬屋夫婦。一人娘の出産が早まった。立ち会うため、店を連休にした。初孫である。オイルショックのときも店を開けた。嫁の出産のときも、一人店を守った。一徹な主人の矜持である。ためら
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