月曜日の朝。/梓ゆい
着る人がいなくなったスーツ。
二階のクローゼットの片隅で
父の足音を待っていた。
覆われたビニール袋の下に潜り
ハンガーに吊るされたスーツを抱きしめる。
(それは防腐剤の臭いばかりで、呼吸をするだけでも苦しい。)
朝のホーム
ゆっくりと開く特急電車のドア。
目を閉じれば
笑顔で手を振る後姿が見える。
同級生をすり抜けて
並んで登る駅の階段。
恥ずかしさばかりがこみ上げて
途中から私一人が駆け足になった。
(そればかりが鮮明なのは、繰り返していた日々の象徴で
止まる事を忘れた回転木馬のよう。)
誰も居ない昼下がりのホーム。
停車したままの青い車両。
親とはぐれた迷子のように
私はベンチに腰掛けた。
「もうすぐ来るはずの特急電車に乗り、山梨へと帰ってくるはずの父を待つかのように。」
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