帰 還/塔野夏子
 
街からすこし離れて浮かんだような
この小さな白い部屋を
うすむらさきの夕暮れが染めて
そして還ってきたあなたが居る
私の知ることのできない
どんな世界を いくつ巡ってきたの
それをあなたが語らないことはわかっている
ただ私はあなたの瞳の中に
そのはるけさを 見る

私はもうあなたの胸に身を投げかけることはしないし
あなたの腕も私を抱きしめようとはしない
そんな抱擁であらわせるよりも
もっと深いいとおしさが
二人のあいだを浄らかに行き交うのが感じられるから
それでいい

うすむらさきの夕暮れが薄まって
そしてあなたが還ってきたときはいつもそうであるように
この上なく透明な夜がおとずれてくる

夜明けにはもう
あなたは去ってゆくのでしょう
私が知ることのない何処かへと
それまでのあなたの一夜の眠りを
この白い部屋であずかること
それが私の 静かな誇り





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