活イカ/ただのみきや
 

一挙に抱え込まれ
鼻先にトンビ口が迫る
《危ない! 》
――間一髪
包丁を真一文字に諸手で受けた
しかし奴の力は半端じゃない
ぎりぎりと引き寄せられる
おれは顔を思いっきり捻って
奴の腕の一本を齧り取った
《美味い! そして甘い! 》
ああ醤油が 刺身醤油が欲しい
そして おそらく たぶん きっと
ワサビよりおろし生姜が合うだろう
だが 果たして 
無事に食べることが出来るだろうか
こっちが食べられる可能性も ――ああ
だから活イカはよせと言ったのに
結婚して二十年になるが
妻はまだ理解してくれない
おれが目の前の生き物を
自分と等身大に見てしまうことを



             《活イカ:2016年2月24日》





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