沈丁花2/吉岡ペペロ
行にいくお金なんて、うちにはないはずよ」
「じゃあ姉さんはどこにいるっていうんだよ」
繁治がにらむと裕子ちゃんが後ずさりした。
「姉さんは俺が働いた金でともだちと旅行に行ってるんだよ」
義兄が立ち尽くしていた。裕子ちゃんがどこを見るともなく目を動かさずにいた。
「三人で仲良く暮らしてるんだ。おまえに心配かけるようなことはないよ」
義兄が言うと裕子ちゃんが泣き出した。
繁治はどこか自分に顔というかなにかが似ているような気がする姪の肩に手を置いた。そして、
「ごめん、義兄さんにも言いそびれてて、姉さん、あした旅行から帰ってくるんだ。だからあしたみんなで一緒に飯でも食いにいこうよ」
そう言って義兄と目を合わせた。
繁治とおなじで裕子ちゃんも遅く生まれた子だった。姉は裕子ちゃんを四十を過ぎて産んだ。裕子ちゃんぐらいの娘が自分にいてもおかしくない。
裕子ちゃんが階段をおりていく音がする。繁治はちゃぶ台に肘をついて自分の手の甲を見つめていた。
「ちょっとやっぱり」
そう言って義兄が裕子ちゃんを追いかけて出ていった。
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