沈丁花2/吉岡ペペロ
アパートの階段をあがり鍵をあけ繁治は部屋に義兄を探した。戸をあけてすぐのところに狭い台所があってベランダまで見通せる2Kだ。奥の畳に日だまりが揺れていた。繁治は静謐すぎる気配にはっとした。
トイレをあけると義兄が恥ずかしそうな顔で繁治を見上げた。
「ごめん、入ってたんだ」
繁治が閉めなおす音と、
「おかえりい」
義兄の声がかさなった。
「今から朝飯つくるからなあ」
「ああ、たのむよ」
繁治は手前の部屋の仏壇に手を合わせてから向きなおり、ちゃぶ台に新聞を広げた。仕事中ラジオからながれていたニュースを眺めていく。いつも不思議な気持ちになる。リアルタイムなことを読んでいるのにな
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