沈丁花/吉岡ペペロ
 
ちいさな花は暖房ですぐに干からびた。車を停めてそれを掃除しようと思っていたら左前方に手をあげているスーツ姿を見つけた。ハザードをつけ、ウェットティッシュでダッシュボードを拭いながら、繁治はお客さんに車を寄せていった。
 客が忙しない感じで行き先を告げた。それから、「夜遅くまでご苦労さんだねえ」と繁治をねぎらってきた。昔雀荘仲間だった男によく似ている。恰幅がよくて頭が良さそうなお客さんだ。
「深夜のお客さんなんて、ややこしいひと多いんじゃないの?」立て続けに話しかけてくるお客さんに繁治はあっと思って、
「お客様、申し訳ありませんがお客様のご安全のために、シートベルトの着用をお願いしております」
[次のページ]
戻る   Point(5)