三つ葉/梼瀬チカ
 
夕暮れの後薄闇になって
築十七年のマンションの庭を見ると
芝生の奥の片隅に三つ葉が生えている
その向こうで子供がボールを蹴っている
一人はエントランスのマットに寝そべり
一人は自転車に乗った買い物帰りの母親に尋ねる
「なあ今から行ったらあかん?」
「あかん」
「なんで」
「もう遅すぎる」

今日という一日の陽は沈み
そんな母がいて
母には子供が
子供には父が
父には親が
やがて親が居なくなり
長年連れ添った相手も居なくなり
子供が大人になって離れてゆく頃
取り残された時間
あなたは私は誰だろう
それを遅すぎると
言い聞かせる時が来るのか

薄闇の中の
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