生きようと思うのだ/ただのみきや
 
浸しにして
その水底から尚も
のたうつ眼が追いかけた
壊れない人形の理想的振る舞い


新しいことでもなく
珍しいことでもない
ただ生きようと思うのだ


昨日
すぐ傍にカラスが止まり
こちらを見つめていた
嘴に少しの雪を乗せて
しきりにまばたきをしていた
モールス信号みたいに
その夜
川沿いを下りてきたキツネが
驚くほど傍まできて
暫し互いに見交わした
白い息で そっと
新しい啓示はない
やつらは語らない
あるいは語っていたのかもしれない
しかし心は手繰り寄せる
わたしに向かってわたしは語る
カラスの姿で
キツネの姿で
《生きよ そして 
[次のページ]
戻る   Point(16)