生きようと思うのだ/ただのみきや
さて 生きようと思うのだ
遠く山並みは雪雲でかすみ
いま街は晴れている
人通りの少ない週末の朝
わたしは浅瀬の魚のよう
ぼんやりと光を纏い静止する
異国の歌が暫し寄り添い また
去って行った 煙でできた女のように
新しい啓示はない
あちらこちらに痛みを抱えたまま
増え過ぎた不安の群れをこの先
どうやって養って往くものか
分かり切ったカードを捨てる
「いま生きている者が死に焦がれ
いま死に往く者が生に執着する」
傷だらけになりながら
自然の経絡は尚も巡り続ける
季節は厳しく
慈しみ深い
大河を下る浮島
わたしたちの頭の中に
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