井上靖小論/葉leaf
全詩集が出ているので、是非ご一読をお勧めする。
井上靖の魅力は、何よりもその清潔さと紳士性である。文体の背後に透けて見える彼のたたずまいがとても端正なのだ。彼はエロスともタナトスとも無縁、もちろん消尽やら血なまぐさいものとも無縁、またユーモアや虚栄心、競争心とも無縁である。確かにそれらの要素は彼の内部に渦巻いていたのかもしれないが、それをきれいに統御する理性が強固だったと言える。
井上靖の詩は、ある意味小説であり、ある意味エッセイでもあり、ある意味批評でもある。彼の詩を読んでいると、世の中に流布しているジャンルの区分けなどそもそも幻想にすぎなかったのだということがよくわかる。彼はストーリー
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