アイオンスはないてない/村乃枯草
 
午後八時になると
地下の廊下と階段を降りていき
つきあたりの牢にアイオンスはいる

アイオンスは
青い毛皮に
五本の足と三本の尾を持つけど
顔だけは犬に似て整っていて
嘘ばかりしゃべる

「獅子の燐粉は赤く周囲を凍てつかせる力を
持ち、人が触れれば二年の記憶を喪うのだ」
「黄色く燃えて火傷の記憶が一生残ると思っ
たけど」
「今の太陽は三つ目であり、二つ目が燃え尽
きたときには世はひと月も闇におおわれたの
だ」
「落っこちてきて山火事をおこしたの間違い
じゃないの?」
「構わん。無知は罪ではない」
「わたしは叱られてばっかりよ」

地上にあがると看守がわた
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