おとぎばなし/そらの珊瑚
 
火がないのに
いつでも
沸きたてのお湯が出てくる
昔、むかし
食卓の上に
魔法瓶という魔法があった

ただいまと
帰ってくる
冬のこどもたちのために
とても温かい飲み物が
瞬時に作られる
カップから生まれる湯気たちが
小さな顔のまわりで
ふわふわおどる
まるで
あそんで、あそんで、と
まとわりついてるみたいに

夜がやってくると
その魔法は静かに効力を失い

湯気たちは
水に

魔法瓶は
ただの瓶に

母は
くたびれた人間の女に戻った
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