針先/あおい満月
。
(私は助かるのだろうか)
壁に擦れて、
血と埃にまみれた、
赤黒い腕を見つめる。
引き込まれる力に流されて、
私の身体は外へ出ていく。
私はしばらく、
呼吸を忘れた。
鼓動だけが、
川をのぼる鮭の群の息づかいのように、
飛沫をあげていた。
あれから、
私は未だに、
小さな穴が怖い。
穴に好奇を持ちすぎて怖い。
今でも家のドアの鍵穴を
覗き込んでしまう。
その向こうには、
きっと光りさす闇があるのか。
闇のさす光があるのか。
鏡のような世界が、
ひらひらと雪になって、
小指を差し出してくる。
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