轍のこと/はるな
とおして娘をつくることはできないのだ。ときどき、娘をわたしの希望する通りに歩かせたくなる。でもそれはたぶん健全なことでないと感じる。わたしの背はもう伸びてしまった(あんまり高くはならなかったけれど)。
娘から、赤んぼうのころのしぐさが少しずつ失われていくのも同じことだ。そのかわりに彼女は力強く走ったり泣いたり、ドアを開けることができる。失うことはこの先もせつないことに変わりないが、それを悲しみすぎないようにしよう。食べ物みたいにいないようにしよう、と昔おもった、どこにも属さない、ともおもった、でも、いつどこで思ったのかは忘れてしまった、思ったことは覚えているけど感じたことは忘れてしまった。どこにも属さない、というのを、(あるいは今も感じていることだとしても、それは以前とはやっぱり違うのだ)。
みんなどこかへ行ってしまった。わたしもまたここへ来たのだし、娘だってほんの三年まえにはいなかった。
轍をあるいていく。ただしさについては、しばらく忘れておく。
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