月に祈る/あおい満月
 
彼女は彼が口を開く度に、
彼がどれだけの代償を
支払ってきたのか、
彼女は彼の、
赤く腫れ上がり皮の剥けた
手のひらを抱きしめる。

(マモラナクテハ、
ナントシテモ彼ヲマモラナクテハ)

彼女を包み込む60兆もの、
細胞という細胞がざわめき、
騒ぎだす。
割れた窓硝子、
吹き込んだ旋風が、
彼女の髪の背中を叩く。
彼女は渾身の力を振り絞り
立ち上がる。

**

干潟の蟹の母たちは、
満月の夜に綿菓子のような、
白い泡を吐いて卵をあたためる。
母たちは、
母たちだけが知っている。
この子たちが大海原に
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