線路を隔てた迷子/深水遊脚
 
乗客の少ない
駅員不在のことも多い駅に
子供が取り残されて泣いていた

所々「ママ」「ママ」の混じった
ほぼ聞き取れない泣きながらの声は
受けとるもう一人の声がないままに
モノクロームの静寂を裂く

少ない駅の利用客の全員が
それぞれのことはしつつも
気にかけて見守っていたと思う
駅員はそのときも不在だったが
インターホンで迷子を知らせる
誰かの声を聞いた

違う誰かが子供に話しかけた
なにしろずっと子供は泣いていたから
会話にはならないけれど
少しは安心するのだろうと思う
こんなやりとりでも相手を安心させるような
言葉を 声を 私は持てただろうか


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