理不尽に引き裂かれる靴の二人/オイタル
 
今頃 きっと
雪の底を廻る透明な海流の中を
群れから離れたさかなみたいにすばやく波たちに運ばれて
くるくる遠い北の沖まで
飛ばされているに違いない
今頃きっと
オホーツクの流氷の下の
小さな白い生き物たちと一緒に
氷を透かす陽光に
光合成の真っ最中というところだ


ぼくたちが朝方の早い闇を抜けて
赤い信号をくぐる そのとき
襲い来る動物プランクトンの隙間を掻い潜り
ようやく港に打ち上げられたあのかかとの潰れた寂しい靴は
言葉の見えない古い街に転がり出ては
酔いの残った男たちや女たちに足蹴にされ
歩道橋の階段の裏で
うすやみの眠りを眠っているだろう
(靴の右足)
固く積もった雪原を
ぎぎぎぎ
音たてて歩くときの
夢を見ながら

そうして
ただ光みたいにたゆたい流れる
寂しい思いでいっぱいの夜
ぼくの残された片っ方の靴は
(左足)
いかほどの罪もなく掃きあげられた
玄関の
暗がりに落ちた真っ暗の
その闇に今も
目を凝らしている
じっと 眼を
凝らしている

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