スケッチ旅行/レタス
混じっていた
潮の香りに誘われて
お腹が鳴ったのだけれど
弁当などは持ってきていなかった
白と黒のタマも鳴く
そろそろ昼を過ぎている
誰もいない路地から
ゆっくりと老婆がお盆を静かに抱えてきた
タマの飼い主だ
“絵描きさん おなかがすいたじゃろ 食べんさいな”
海苔に包まれたおにぎりふたつにたくあんが添えられていた
そしてタマに煮干しを与えると
路地裏に消えて往った
感謝の言葉を忘れてしまったぼくは
後悔と空腹の鬩ぎあいのなかで
おにぎりを鼻水を啜り頬張った
梅干しの酸っぱさが涙を誘う
ぼくはさらさらと またキリッと強くパステルを押さえ
潮騒の街を描いてゆく
傍らに寄り添うタマだけが寂しさを癒やしてくれた
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