ガ/ホロウ・シカエルボク
中を覗けるところに止まってしばらく覗いていたが、そこで動いているはずのものたちは見る影もなく、ただただがらんとした空間があるだけだった
(かれらも死んでしまったのだろうか、あるいはおれのようにどこかへ移ってしまったのだろうか)
そう考えながらしばらくの間そこで
以前過ごしていた空間を思いながら過ごした
そうしてまた長い時間が過ぎた
その場所には誰も戻ってくることはなかったし
また誰か新しいものがくることもなかった
まるで空間が死んでいるみたいだった
かれはそうした気配を感じることが出来た
もうかれはあまり考えることがなくなっていた
空っぽの空間を眺めているうちに
自分自身のなにかがおなじ空っぽを抱えてしまったみたいだった
(ああ、もう、きっと…)
夏に
その場所に貼りついて
そのまま
息絶えた
ひとりの蛾が
いつしか淡い影となって
冬には、なくなった
それはありふれた風景だったし
毎年のように
繰り返されていたこと
だが
しかし
その蛾には妙な意志があった
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