ガ/ホロウ・シカエルボク
夏に
その場所に貼りついて
そのまま
息絶えた
ひとりの蛾が
いつしか淡い影となって
冬には、なくなった
それはありふれた風景だったし
毎年のように
繰り返されていたこと
だが
しかし
その蛾には妙な意志があった
ついぞ
表に出ることはなかった意志だけれど
羽ばたくことにも
撒き散らす鱗粉にも
そのすべてに意志があった
それが在る時点で
かれは
もはや蛾ではなかったが
蛾であること以外に
術があるわけでもなかった
ときどき
かれは
壁に止まったまま、じっと
一点を見つめていたかと思えば
狂ったようにあたり
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