ざくろ/光冨郁埜
呼ぶことのない
部屋のテーブルには
ざくろの 割れた実が ひとつ
むくれている ざくろには
いくつものやみがあって
そのうつろに
赤黒い眼がおさまっている
ざくろの実に
穿かれた口があって
染まった歯と唇のまから
こけむす ざらつく舌が うごめいている
ざくろは 皮を 肉のほうから脱ぎ
むくりと ひとの顔となる
歎ずる身体のあちらこちらに
隠し切れない
乾くことのない傷痕が ひかりを求めている
ざわつく 赤黒い 胸騒ぎをひめながら
ひっそりと
ひとは 朱に染まった服を まとっている
その服の裾から覗く 傷もあれば
下着に隠れる 痕もあって
む
[次のページ]
戻る 編 削 Point(12)