(1/3)伊勢うどんをマフラーに/吉岡ペペロ
だけなんだ」そう言って泣きじゃくった。
運ばれてくるタイ風オムレツやパパイヤサラダを取り分けながら、
「かわいそうって、なに、どういうことよ」
あたしはあの人の顔も見ずに吐き捨てるようにしてつぶやいた。そして、
「あたしこんどアーヤとふたりで旅行するの。会社で表彰されて旅行券もらったんだ」
そう言ってあの人をにらんだ。
あの人はまだ泣き足りないようだった。ふつうどこに行くのぐらい聞くだろうがと思いながら、あたしはどこに行こうか考えていた。
タイに行こうかと思ってるのと言いそうになって、あたしは咄嗟に伊勢に行くのと口に出してびっくりした。
「なんで、伊勢なの」
あの人がきょとんとした顔をして聞いた。あたしもきょとんとした顔をして言った。
「テレビでやってたから」
それは確かに本当だった。何気なく見ていたテレビで式年遷宮がどうたらこうたら言っていたのだ。
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