20世紀横丁/ベンジャミン
 
終電に嫌われて千鳥足
出会いと別れにくたびれてしまった

気がつけばタクシーの中
行く先を告げた記憶もない、運転手は
灰色の髪を暗がりに染めている

「20世紀横丁です」

見慣れない街並みに目を泳がせれば
すでにタクシーも運転手もいない
携帯はつながらず
公衆電話に小銭を流しこむ

「遅かったのねぇ」

電話の声が懐かしい
一言もしゃべらないまま小銭が落ちた

「また飲んでたの?」

なぜか返事ができなくて
のどの奥で苦い味がする
声の先からはさらに子供たちの声が
ぱぱ、ぱぱ、と呼んでいる

帰らなきゃいけない
俺は帰らなきゃいけない

見上げた星の瞬きが
儚い電波の残像のように見えた
無数にとびかう近代化の中で
本当の声を忘れてゆく

便利に置き換えた言い訳が
少しずつほどかれてゆくのを感じながら

この場所で懐かしい声を胸に刻んだ




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