執行の朝/レタス
 
ひそやかに歩いてきた刑務官が
彼の扉の前でたたずむと
カチリと扉が開いた
四人の人たちは無言で頷き
彼をうながし
三畳間から
誘いだす

彼の記憶はまるで空白で
肩と足だけが震えた
スリッパが巧く入らない
彼はなにも訴えることはできなかった

リノリウムの通路は冷たく光っている
震える足を引きずりながら
体内時計の秒針がコツリとすすむ

やがて温かな広間が彼を迎え
人々は柔和な唇で彼を迎えた

藤色の柔らかな絨毯と
ベージュの壁が彼を包み
これから何が行われるのを誤魔化している

祭壇に饅頭が盛られ
召し上がれと僧侶が囁く

彼の記憶は蒼白に彩られ
空白に満ちていた

人々は怖くはないと頬笑み
彼を促す
広間の中央に
1m四方の仕切りに誘われ
四人の刑務官は素早く
彼にまとわりついた

彼はここで終わった
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