私たちの空/岡部淳太郎
楽であるように
横に 水平に 這うように生きることが人びとにとっての幸福なのだろう
それを 幸福と呼ぶのなら
空を所有しようと欲しない人びとは
地上のすべてのものを所有しようと欲する
みんな決してくるわない
私は一足先にくるう
昔 垂直な生への憧れをうたう詩人がいた
私が生まれるはるか前にそういう詩を書いた
まぎれもなく
重力とは永遠の恐怖である
そして古の呪いである
夜になると
天にその座を占める星たち
遠い空間から私たちを笑っている
星もいつかは死ぬ
だが重力の呪いに負けて落ちてくるのは星ではない
名前のない石だけだ
今日の
水平の生活を何とかやり遂げて
私はひとり心を開く
天上を破って 大気圏を突破して
不純な思いは彼方にまで届く
空
私たちが見上げるべきもの
私たちがたどりつくところ
みんなくるえばいいのに
私も一緒にくるいたい
(注)第四連一行目は、田村隆一のこと。
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