私たちの空/岡部淳太郎
今日もまた水平に生きてしまった
床に零れた水のように
だらりと二次元に広がる憂鬱
その中で私は
音楽のような殺意を胸に秘めて日常に微笑む
空に観察されている
私は何者でもない
冬の山の稜線はくっきりと際立ち
背後の空との境界を力強い筆致で刻印している
私は夢想する
稜線に沿って頂上を目指して山を登る人びとの姿を
ふいに山は消え
その背後に隠していた空を現出させ
人びとだけが空に残る
空に向かって 人びとが登る
だが 人びとは本当は空に向かって歩かない
地表を水平に移動して
それを上から眺める神の視線を持たない
横になって眠ることがすべての人にとって快楽で
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