スダチ「巣立ち」/花形新次
 
搾りたかった
何にでも
搾りたかった
握力はまだ
いくらでもあった

さんまでも
松茸でも
唐揚げだって
刺身だって
みんな
スダチだった

それが徳島だった

だから
きみが東京に行くと
言い出したとき
心配の余り
汽車のきみに向かって
袋一杯のスダチを投げ入れたっけ

きみの巣立ちに
こんなに相応しいものは
他にないと思って

(スダチ詩集「辛気臭い奴はレモン好き」より)
戻る   Point(1)