もういちど砂になって./梓ゆい
父が玄関先に佇んでいる。
綺麗に仕立てたスーツを着て。
奥の部屋から出てきた私に
父は聞いてきた。
「俺は、いつ死んだんだ?」
私は一瞬
間を置いて答える。
「死んだよ。正月が明けてすぐ。」
前の日に容態が変わったこと。
手を握り返してこなかったこと。
「奇跡の男だから、大丈夫だ。」と
下の二人が言った事。
日付が変わる前に
酸素マスクを外した事。
丁寧に淡々と父に伝えきった。
「そうか。」と返事をしたので
玄関の戸が開く。
(何かを悟り受け入れたかのように、背筋は真っ直ぐに伸びていた。)
庭先の野良猫がじゃれている。
「迎えに来たよ。」とでも言うように
裏山に埋めた飼い犬が座っている。
父は一度も振り向かないで
色あせたリードを手に取った。
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