夜と火輪/木立 悟
あるはずのない坂道を
誰かが歩む音がする
山頂をすぎ
上へ 上へ
歩みの音は止むことがない
ほんの少しのなまぬるさ
小麦の路に沈む指
灰の刃が生えた洞
滴の音に廻り出す
降りる火のなか
昇る声があり
源へ源へ突き刺さり
白と鉛の水を降らせる
鏡のなかの
右胸の一滴
まだらな夜をすぎる星
名前を得ては捨て去るけだもの
水と径が手を合わせ
窓のようなかたちが生まれ
窓の前に立ちはだかり
異なる夜を映してゆく
鏡のなかの
濡れた背の色
わずかに歪んだ火の輪が地にあり
還るもの 来るもの
ふたつの行方を照らしつづける
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