最後の朝。/梓ゆい
「離してなるものか。」とは言わないで
父の顔に触れている。
「別れ際に泣くのは、銀幕の中だけだ。」と考えた。
これからは
ケーキを切るときも
饅頭を分けるときも
きっちり測らなくても良いのだ。
(大きくなったとりわけ分を食べても、お腹いっぱいにはならない。)
新成人の晴れ着よりも
空を昇り行くこいのぼりの雄姿よりも
父のために作られた波打つ白菊の祭壇が
何よりも美しい。
賑やかに送り出そうと差し出した2万円入りの香典袋
働いて得た現金は
汗よりも塩辛い涙となって足元に落ちた。
(しっかりと形を保つ骨が、所々緑色に染まっている。)
四人で迎えに来たのに
父は「ありがとう。」と返さない。
(ホントウハ、カエシタクテモカエスコトガデキナカッタノカモシレナイ。)
最後に一言
「いってきます。」と言えば良かったのに・・・・。
いなくなる事を受け入れようとしたら
口が自然と別れを述べた。
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