お父さんのお葬式。/梓ゆい
 
手を振る父が見えたような
雲ひとつ無い冬の空。

最後の呼吸にも似た突風が
火葬場の玄関を通り抜ける。

(足音だけが響く廊下。)

両腕に抱えた骨壷が
最後に抱き上げた身体よりも重たい。

(遺影の父は微笑んだまま、私たち家族を眺めているだけ。)

「おーい。」と呼ぶ声が聞こえてきそうで
その場所を離れたくは無かった。

「そうすればきっと、父の死を認めてしまう。」

その事が怖くて
動く事が出来ずにいた。

(腕の中にある箱の結び目をほどいて、陶器の蓋を開ければきっと認めなくてはならない。)

マイクロバスの座席に
広い式場の何処かに
父の姿が
[次のページ]
戻る   Point(5)