みかん/藤原絵理子
スーパーの袋にいっぱいのみかん
向かいの席に座ったおじさん
着いた駅のホームで倒れた
淋しかった夜更けのホームが
めいっぱいの 太陽の色にあふれて
スマホで救急車を呼ぶ人
駅員に知らせようと走る人
明るい太陽を拾ってあげる人
あたしはとっさに 持っていた傘を
ホームの黄色い線のうえに置いた
明るい太陽が ひとつたりとも暗い線路に落ちないように
お孫ちゃんの 小さな手の中で輝くはずだったのかもしれない
亡くなった奥さんの お仏壇を飾るはずだったのかもしれない
たくさんの 明るい太陽
うっすらと 額に血を滲ませて
おじさんは幸せそうに横たわっている
たくさんの太陽に囲まれて
戻る 編 削 Point(10)