飼い主のない猫/AB(なかほど)
 
うな景色を思い出すとき

いや
景色なんてきれいなものでもなんでもない
なんてのは
今さらで

犬に小便かけられた
電車降り際に横のサラリーマンに吐き逃げされた
間の悪い田舎の親からの電話
新小岩のビリヤード場
とりとめのないポケットと
やるせない気持ちと
マイクロバスに乗り込んでゆく国際色と
それから
ビデオばかりの
眠りたいだけの夜
君だけの夜
君さえも要らない夜


あの夜もこんなふうに
帰り道でもない道を通って
アパートに辿り着くと
飼い主のない猫に好かれて

君の声も
君の顔も思い出せないのに
君の匂いなんて思い出したはずもない

あの夜に似ている


   
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